投稿日 2026年08月15日
「人から嫌われるのが怖い」「相手から返信がないと強い不安を感じる」「恋人や家族に見捨てられるのではないかと心配になる」といった悩みについて調べるなかで、「不安型愛着障害」という言葉を目にしたことがある方もいるでしょう。
しかし、「不安型愛着障害」という名称は、DSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル)に記載されている正式な診断名ではありません。
一般に「不安型愛着障害」と呼ばれている状態の多くは、心理学・愛着研究における「不安型の愛着スタイル」や「愛着不安(attachment anxiety)」と呼ばれる概念を指していると考えられます。
参考:Mikulincer & Shaver (2012), An attachment perspective on psychopathology
また、愛着(アタッチメント)の分類方法には複数の理論があり、「不安型」「回避型」といった分類だけでなく、Patricia Crittenden(パトリシア・クリッテンデン)が提唱した「アタッチメントと適応の力動的成熟モデル(Dynamic-Maturational Model:DMM)」などもあります。
参考:Family Relations Institute:DMM Model
この記事では、「不安型愛着障害」という言葉が何を意味しているのか、医学的な愛着障害との違いや、不安型の愛着スタイル、DMMとの関係について解説します。
「不安型愛着障害」は正式な病名ではない

まず知っておきたいのは、「不安型愛着障害」は医学的な診断名ではないということです。
DSM-5-TRでは、養育環境などとの関連が重要となる愛着に関する障害として、主に次の2つが規定されています。
・反応性アタッチメント障害(Reactive Attachment Disorder:RAD)
・脱抑制型対人交流症(Disinhibited Social Engagement Disorder:DSED)
これらは「ストレス因関連障害群」に分類される疾患です。
一方で、「不安型愛着障害」「回避型愛着障害」といった診断名はDSM-5-TRには存在しません。
そのため、「不安型愛着障害かもしれない」と感じている場合も、医学的な意味で「愛着障害という病気の不安型」と診断されるわけではありません。
インターネット上では「愛着障害」と「愛着スタイル」が混同されていることもあるため、両者を区別することが重要です。
「不安型」とは不安型の愛着スタイルを指していることが多い
一般に「不安型愛着障害」という言葉で説明されている特徴の多くは、成人の愛着研究における「愛着不安(attachment anxiety)」の高い状態と重なります。
成人の愛着についてはさまざまな分類がありますが、代表的な考え方のひとつが、
・愛着不安(attachment anxiety)
・愛着回避(attachment avoidance)
という2つの軸から捉える方法です。
参考:成人愛着尺度・2次元モデルの解説(UC Davis / Illinois)
「愛着不安」が強い人では、対人関係において「相手から拒絶されるのではないか」「見捨てられるのではないか」といった不安が強くなりやすいと考えられています。
一方、「愛着回避」が強い場合には、人との親密な関係を避けたり、他者に頼ることに抵抗を感じたりする傾向がみられることがあります。
ただし、これらはあくまでも対人関係における傾向を捉えるための心理学的概念です。
「愛着不安が強い=精神疾患」という意味ではありません。
不安型の愛着スタイルにみられやすい特徴
愛着不安が強い人では、対人関係において次のような傾向がみられることがあります。
・相手に嫌われていないか頻繁に気になる
・相手の態度が少し変わっただけでも不安になる
・メールやメッセージの返信が遅いと強く心配する
・恋人や家族から見捨てられることへの不安が強い
・相手から愛されていることを何度も確認したくなる
・相手との距離が離れると強い不安を感じる
・人間関係で相手の反応に敏感になりやすい
・自分より相手を優先しすぎてしまうことがある
特に恋愛などの親密な人間関係では、こうした特徴が目立つ場合があります。
ただし、これらに当てはまるからといって、「不安型愛着障害」と診断できるわけではありません。
対人関係の不安には、性格や生活環境、過去の経験だけでなく、不安症、うつ病、発達障害、パーソナリティ特性など、さまざまな要因が関係している可能性があります。
愛着スタイルと「愛着障害」は何が違う?

「愛着スタイル」と「愛着障害」は、似た言葉ですが同じものではありません。
| 愛着スタイル | 愛着障害 |
主な意味 | 対人関係における愛着の傾向・方略 | DSM-5-TRなどで定義される精神疾患 |
代表例 | 安定型、不安傾向、回避傾向など | 反応性アタッチメント障害(RAD) 脱抑制型対人交流症(DSED) |
診断基準の有無 | 診断名ではない | 診断基準がある |
「不安型」という分類の有無 | あり 愛着研究で用いられる | 「不安型愛着障害」という医学的な診断はない |
そのため、「自分は不安型だから愛着障害である」と判断するのは適切ではありません。
愛着障害については下記の記事でも詳しく説明しています。
▶︎ 愛着障害とは?種類と特徴・見分け方・併発しやすい症状や大人の症状・治療法も解説
不安型の愛着スタイルになる原因は?
愛着スタイルは、単一の原因によって決まるものではありません。
幼少期に養育者との間で形成された関係性は、その後の対人関係の形成に影響を与える可能性があります。
一方で、人間の愛着や対人関係は幼少期だけですべて決まるものではなく、その後の家族関係、友人関係、恋愛、結婚など、さまざまな経験によって変化する可能性があります。
そのため、
「親の育て方が悪かったから不安型になった」
などと単純に原因を決めつけることは適切ではありません。
愛着スタイルは、さまざまな経験や個人の特性などが相互に関係して形成されていくものとして捉える必要があります。
不安型の愛着スタイルは治せる?

愛着スタイルは病名ではないため、厳密には「治療して治す」という表現が必ずしも適切ではありません。
一方、愛着不安が強いために人間関係や日常生活で困っている場合には、下記のように不安が生じるパターンを理解し、より安定した関係を築く方法を身につけることで、困りごとが軽減する可能性があります。
自分の不安が生じるパターンを理解する
愛着不安が強い場合、まずはどのような場面で不安が生じやすいのかを理解することが大切です。
例えば、「相手から返信がない」「いつもより相手の態度が冷たく感じる」「しばらく会えない」といった出来事をきっかけに、「嫌われたのではないか」「見捨てられるのではないか」と不安が強くなることがあります。
このようなときには、出来事そのものだけでなく、
- 何が起きたのか
- そのとき何を考えたのか
- どのような感情が生じたのか
- その結果、どのような行動をとったのか
を振り返ってみると、自分の対人関係におけるパターンを把握しやすくなります。
自分の愛着スタイルを「性格だから変えられない」と考えるのではなく、不安が生じやすい状況や考え方・行動のパターンを理解することが、対人関係の困りごとを改善する第一歩になります。
相手の反応を否定的に解釈しすぎない
愛着不安が強い人では、相手の曖昧な反応を「拒絶された」「嫌われた」と否定的に解釈しやすくなることがあります。
例えば、メッセージへの返信が遅い場合でも、実際には「仕事が忙しい」「返信する時間がなかった」「あとで返そうと思っていた」など、さまざまな理由が考えられます。
不安が強くなったときには、最初に浮かんだ考えだけを事実だと決めつけず、ほかの可能性はないかを考えてみることが役立つ場合があります。
また、不安を解消するために何度も連絡したり、相手の気持ちを繰り返し確認したりする行動は、一時的には安心につながっても、長期的には不安を維持してしまうことがあります。
「今感じている不安」と「実際に起きていること」を分けて考えることが大切です。
安定した対人関係を経験する
愛着スタイルは、幼少期だけですべてが決まり、その後一生変化しないものではありません。
成人期の愛着には一定の安定性がある一方で、その後の恋愛、友人関係、家族関係などの対人経験によって変化する可能性も指摘されています。
そのため、安心して自分の気持ちを伝えられる、困ったときに相談できる、意見が違っても関係がすぐに壊れないといった安定した対人関係を経験することは重要です。
「不安を感じない関係」を目指すというより、不安や意見の違いが生じても、それを話し合いながら関係を維持できる経験を積み重ねていくことが大切です。
参考:Fraley et al. (2011), Patterns of stability in adult attachment
心理療法・カウンセリングを利用する
対人関係への不安が強く、自分だけでは同じパターンを繰り返してしまう場合には、心理療法やカウンセリングを利用することも選択肢になります。
心理療法では、「不安型」というラベルそのものを治療するのではなく、現在困っている感情や考え方、対人関係のパターンなどを整理し、より適応的な対処方法を身につけることを目指します。
また、愛着不安の背景に、うつ病や不安症、トラウマに関連した症状などがある場合には、それぞれの状態に応じた治療が必要になることがあります。
「不安型愛着障害を治す」というよりも、現在の生活で何に困っているのかを明確にして、それに応じた支援を受けることが重要です。
精神科・心療内科への受診を検討するケース
愛着不安そのものは精神疾患ではないため、「不安型の愛着スタイルだから精神科を受診しなければならない」ということではありません。
一方で、対人関係への不安によって、
- 仕事や学校に行けない
- 恋人や家族との関係が大きく悪化している
- 不安や抑うつが長期間続いている
- 感情のコントロールが難しい
- 睡眠や食欲など日常生活にも影響が出ている
といった状態がみられる場合には、精神科や心療内科への相談を検討してもよいでしょう。
こうした症状には、愛着スタイルだけではなく、不安症、うつ病、PTSDなどのトラウマ関連疾患、ADHDやASDなど、別の要因が関係していることもあります。
特に、見捨てられることへの強い不安、感情の不安定さ、対人関係の大きな変動などは、愛着スタイルだけでは説明できない場合があります。
そのため、「不安型愛着障害だから」と自己診断するのではなく、現在生じている症状や生活上の支障について専門家による評価を受けることが大切です。
DMM(アタッチメントと適応の力動的成熟モデル)とは?

最後に、愛着を理解するための理論のひとつであるDMM(アタッチメントと適応の力動的成熟モデル)についてご紹介します。
DMMとはアタッチメントと適応の力動的成熟モデル(Dynamic-Maturational Model of Attachment and Adaptation:DMM)のことを指し、Patricia Crittendenが発展させた愛着に関する理論体系です。
DMMでは、愛着に関連した行動を単純に「正常・異常」と分類するのではなく、危険な環境や人間関係に適応するために発達した自己防衛的な情報処理・行動方略として捉えていきます。
大きな分類としては、
· Type A:回避的な方略
· Type B:バランスの取れた方略
· Type C:不安・抵抗的な方略
などがあります。
ただし、DMMはさらに細かなパターンを含む複雑な理論体系であり、単純に3種類の性格に分類するためのものではありません。
「不安型愛着障害」はDMMのType Cなの?
「不安型」という言葉だけを見ると、DMMのType Cと似ているように感じるかもしれません。
DMMにおけるType Cでは、感情に関する情報を強調し、他者との関係を維持するために強い感情表現や接近行動などを用いる方略がみられることがあります。
そのため、一般的に「不安型の愛着スタイル」と説明される特徴と、部分的に重なる場合があります。
しかし、
「不安型愛着障害」=DMM Type C
と考えることはできません。
DMMと、成人愛着研究における「愛着不安・愛着回避」のモデルは、それぞれ異なる理論的背景や評価方法を持っています。
したがって、両者を単純に一対一で対応させるのではなく、異なる理論体系から愛着を捉えていると理解することが重要です。
DMMのType Aは「不安型」なの?
DMMのType Aは、一般的には回避的な方略を特徴とします。
そのため、成人愛着研究でいう「愛着不安が高い状態」をそのままType Aと考えるのは適切ではありません。
Type Aでは、対人関係において感情に関する情報を抑制し、認知的な情報を重視するなどの情報処理方略がみられると考えられています。
一方、Type Cでは、感情的な情報をより強調して処理する方略がみられます。
ただし、DMMではAとCの方略が組み合わさった複雑なパターンなども想定されています。
そのため、
「A=回避型」 「B=安定型」 「C=不安型」
という単純な性格分類として理解するよりも、危険や対人関係に適応するために、どのような情報処理・自己防衛方略を形成してきたのかを見るモデルと理解した方がよいでしょう。
まとめ|「不安型愛着障害」と医学的な「愛着障害」は別の概念
「不安型愛着障害」という言葉はインターネットなどで使われていますが、DSM-5-TRに記載されている正式な診断名ではありません。
一般的に「不安型愛着障害」と呼ばれている特徴の多くは、成人愛着研究における「愛着不安」や「不安型の愛着スタイル」と関連しています。
一方、医学的な愛着障害としては、反応性アタッチメント障害(RAD)や脱抑制型対人交流症(DSED)があり、「不安型」「回避型」という分類とは区別する必要があります。
また、CrittendenのDMMではType A、B、Cなどの方略から愛着を捉えますが、成人愛着研究における「不安型」とDMMのType Cをそのまま同一視することも適切ではありません。
既出のように、愛着に関する概念には複数の理論が存在します。
「不安型」という言葉だけで自分を分類するのではなく、どの理論・研究に基づいた「不安型」なのかを区別して理解することが大切です。
また、対人関係への強い不安や生きづらさによって日常生活に支障が生じている場合には、「愛着の問題」と自己判断するだけでなく、精神科や心療内科などで相談することも検討しましょう。
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