投稿日 2026年06月18日
2026年6月5日、塩野義製薬株式会社から小児期の注意欠如・多動症(ADHD)を対象とした国内初のデジタル治療補助アプリ「ENDEAVORRIDE(エンデバーライド)」が発売されました。
これまで、子どものADHD治療は環境調整などの「心理社会的治療」と、コンサータやストラテラといった「薬物療法」が中心でした。しかし、今回新たに「スマートフォンやタブレットのゲームを通じて治療を補助する」という、全く新しいカテゴリーの治療法が日本の医療保険制度に組み込まれました。
本記事では、ADHD治療として新たに保険承認されたエンデバーライドの仕組み、臨床試験で示された効果、既存の薬との違い、そして処方を受けるための条件について、保護者の方や医療関係者向けに解説いたします。
日本における子どものADHDと治療の現状

ADHD(注意欠陥多動性障害)とは?
ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)は、発達障害(神経発達症)の一つであり、「不注意(集中力がない)」「多動性(じっとしていられない)」「衝動性(思いつくとすぐに行動してしまう)」という3つの主要な症状を特徴とします。
まだ診断されたことのない方は、下記から簡易的なセルフチェックをしてみてもよいでしょう。
近年、ADHDを含む発達障害の診断を受ける子どもは増加傾向にあります。
これは疾患そのものが急増しているというよりも、社会的な認知度が高まり、適切な診断と支援に繋がるケースが増えたことが主な理由とされています。
参考:注意欠陥多動症(ADHD)の児童数4年間で1万4000人増「発達障害が増えている」と言われる”本当の理由”
これまでの治療法:心理社会的治療と薬物療法
日本の「注意欠如・多動症-ADHD-の診断・治療ガイドライン」において、ADHDの治療は「まず環境調整などの心理社会的治療から開始すべき」とされています
1 心理社会的治療(ベースとなる治療)
・環境調整:気が散るものを片付ける、短い時間で区切って学習するなど、子どもが生活しやすい環境を整えます。
・ペアレント・トレーニング:保護者が子どもの特性を理解し、適切な褒め方や指示の出し方を学びます。
・ソーシャルスキル・トレーニング(SST):子ども本人が、対人関係の築き方や感情のコントロール方法を学びます。
2 薬物療法(心理社会的治療で効果不十分な場合の選択肢)
心理社会的治療だけでは日常生活や学校生活に大きな支障が出ている場合、医師の判断で薬物療法が検討されます。
メチルフェニデート(コンサータ)やアトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン(インチュニブ)などが代表的です。
しかし、「薬は副作用(食欲低下や頭痛など)が心配」「子どもが薬を飲むのを嫌がる」といった保護者の悩みも多く、薬物療法に代わる、あるいは薬物療法を減らすための新たな治療アプローチが長年求められてきました。
エンデバーライドとは何か?「ゲーム」が治療になる仕組み

エンデバーライドは、米国Akili社が開発したコアテクノロジーに基づく、小児のADHD患者(6〜17歳)を対象としたデジタル治療補助アプリ(DTx:Digital Therapeutics)です。
日本では塩野義製薬が開発・販売権を取得し、2025年2月に製造販売承認を得て、2026年6月より保険適用での処方が開始されました。
ゲームの仕組み:二重課題(デュアルタスク)
エンデバーライドの最大の特徴は、「二重課題(デュアルタスク)の実行」と「動的な難易度調整」を組み合わせたゲーム形式を採用している点です。
患者は物語の主人公となり、以下の2つの動作を同時に行います。
• ステアリング:モバイル端末を左右に傾けて、キャラクターを操作し障害物を避ける
• タッピング:画面に特定の生き物が現れたタイミングで、画面をタップする
なぜゲームが脳に効くのか?(作用機序)
ADHDの症状は、注意処理やワーキングメモリを担う大脳の「前頭葉(前頭前野)」の機能不全が関与していると考えられています。
通常、人間が二重課題を処理する際には前頭前野の複数の領域が活発に働きますが、ADHD患児ではこの働きが十分に行われません。
エンデバーライドは、患者個々の能力に合わせてゲームの難易度を自動調整しながら二重課題を課し続けます。
これにより、前頭前野のネットワークを選択的に刺激し、脳の機能的な変化(賦活化)を促すように設計されています。
治療の進め方と期間
• 実施時間:1日に約5分のミッションを5回(計約25分)
• 実施期間:6週間(毎日継続することが推奨されます)
• 制限機能:アプリの使用開始から6週間が経過すると、自動的に使用できなくなる仕様です。
また、医師側には「医師管理画面」が用意されており、患者のミッション実施日数や日別の実施回数などの使用状況をクラウド経由で確認し、診療に役立てることができます。
臨床試験で示された効果と安全性

日本国内での承認は、6〜17歳の小児ADHD患者164例を対象とした国内第III相検証的試験(A3831試験)の結果に基づいています。
有効性:不注意症状の有意な改善
この試験では、環境調整を含む心理社会的治療を継続している患者を対象に、「エンデバーライドを6週間使用した群(本品群:109例)」と、「通常治療のみを継続した群(通常治療群:54例)」を比較しました。
主要評価項目である「6週間使用終了時におけるADHD-RS-IV(医師評価)不注意スコアのベースラインからの変化量」は以下の通りでした。
評価項目 | エンデバーライド群 | 通常治療群 | 群間差 |
不注意スコア変化量 | -4.44 | -1.47 | -2.97 |
統計学的に有意な差が認められ(p<0.0001)、エンデバーライドを通常治療に上乗せすることの優越性が検証されました。
また、多動性・衝動性のスコアにおいても有意な改善が認められています。
さらに、1サイクル(6週間)終了後に再度6週間の治療を繰り返したパートでも、改善効果が維持されることが確認されました。
安全性:重篤な副作用はなし
安全性に関して、治療期中(week 0〜6)における有害事象の発現割合は、本品群で30.3%、通常治療群で18.2%でした。主な有害事象は感染症(COVID-19、上咽頭炎など)であり、死亡に至った有害事象や重篤な有害事象は報告されていません。
治験機器(アプリ)による直接的な有害作用(副作用)としては、欲求不満耐性低下(ゲームがうまくできずイライラする等)、頭痛、悪心が各1例(0.9%)認められましたが、いずれも軽度なものでした。
エンデバーライドと既存のADHD治療薬との違い

エンデバーライドは、既存のADHD治療薬(コンサータ、ストラテラ、インチュニブなど)とどう違うのでしょうか。主な違いを比較表にまとめました。
比較項目 | エンデバーライド(DTx) | 既存のADHD治療薬(例:コンサータ、ストラテラ) |
治療の形態 | スマホ・タブレットでのゲームアプリ(1日25分) | 内服薬(カプセル、錠剤、液剤など) |
主な作用機序 | 二重課題による前頭前野の直接的な刺激・ネットワーク強化 | 脳内の神経伝達物質(ドパミン、ノルアドレナリン等)の再取り込み阻害など |
主な副作用 | 欲求不満耐性低下(イライラ)、頭痛、悪心(いずれも軽度・稀) | 食欲減退、不眠、頭痛、腹痛、体重減少など(薬剤により異なる) |
効果の持続性 | 6週間のプログラム終了後も、一定期間効果が維持されることが示唆されている | 服薬している期間のみ効果が持続する(対症療法) |
位置づけ | 心理社会的治療の「補助」 | 心理社会的治療で効果不十分な場合の強力な選択肢 |
重要な注意点として、エンデバーライドは既存の薬物療法を完全に代替するものではありません。
症状が重度な場合や、医師が必要と判断した場合は、薬物療法が優先される、あるいは併用されるケースもあります。
また、従来の薬物療法とエンデバーライドを併用することも可能です。
エンデバーライドの処方を受けるための条件(保険適用要件)と費用
エンデバーライドは、2026年6月1日より保険適用となりましたが、誰でも簡単に処方を受けられるわけではありません。厳格な要件が定められています。
施設・医師の要件
すべての小児科や精神科で処方できるわけではありません。以下の要件を満たす医療機関に限られます。
・発達障害等に関する適切な研修、または児童思春期の患者に対する精神医療に係る適切な研修を修了した医師が1名以上配置されていること
・エンデバーライドを処方する医師は上記発達障害等に関する適切な研修、または児童思春期の患者に対する精神医療に係る適切な研修を修了した医師であること
・過去6か月間に当該医療機関で初診を実施した20歳未満の発達障害の患者数が5名以上であること
患者の要件
対象となる患者は、以下の条件をすべて満たす必要があります。
・年齢:6歳以上18歳未満の小児ADHD患者(エンデバーライドの治療開始時に18歳未満だったが治療中に18歳を超えた方はそのまま治療が継続できる)
・治療歴:環境調整やその他の心理社会的治療を実施しても、期待する症状改善が見られない患者
・算定要件:小児特定疾患カウンセリング料、または通院・在宅精神療法を算定する患者
・注:オンライン診療においてもエンデバーライドの処方は可能
処方はあくまで担当医の判断になりますが、「まずアプリから試したい」というケースだと処方ができない可能性が高く、「環境調整や心理社会的治療をベースとした上で、効果が不十分な場合に追加される選択肢」という位置づけです。
費用について
保険償還価格は14,500円(患者1人につき2回まで算定可能。ただし2回目の算定は1回目の算定後、少なくとも10週間をあけること。)に設定されています。
それ以外にもプログラム医療機器等指導管理料といった保険点数が加算されます。
ただし、小児の場合は多くの自治体で「小児医療費助成制度(子ども医療費助成)」が適用されるため、実際の窓口での自己負担額は無料〜数百円程度に収まるケースが多いと考えられます。
まとめ:子どものADHD治療の新たな希望として
エンデバーライドの登場は、日本のADHD治療に「デジタル治療機器(DTx)」という新たな概念をもたらしました。
薬の副作用が心配な保護者や、既存の治療だけでは十分な効果が得られなかった子どもたちにとって、ゲーム感覚で毎日25分取り組める非薬理学的な介入方法は、大きな希望となります。
一方で、処方には専門的な研修を受けた医師と実績のある医療機関の受診が必要であり、導入初期の現時点ではすべてのクリニックで対応できるわけではありません。
エンデバーライドに関心がある場合は、自己判断で類似のゲームアプリを探すのではなく、まずはかかりつけの小児科医や児童精神科医に相談し、お子様の総合的な治療計画の中で活用できるかを確認することが最も重要です。
宮城県仙台市にある『かもみーる心のクリニック仙台院』では、対面診察あるいはオンライン診察にて、エンデバーライドを用いた治療を提供しております。
ただエンデバーライドを処方できる医師が限られているため、ご希望の患者様はアカウント登録後、問い合わせフォームよりご質問ください。
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